10:手磨きであること
熊倉硝子工芸はすべて手磨きで江戸切子を仕上げている唯一の工房である。
さらに、手磨きという工程は、作り手のこだわりの範疇に留まっていない。
「手磨きである」という<意味>の他に、カットの鋭いエッジという<触感>として、色ガラスの鮮やかさ、カット面の磨き仕上げとつや消し仕上げの共存という<視覚>として、使い手に訴えかけるかたちに結びついている。つまり、作り手のこだわりが、使い手の歓びに直結している。
磨きとつや消しの二つの表現が共存できるということは、単純計算だけでもこれまでの2倍のバリエーションを作り出せることを意味し、ひとつの製品内での配置・模様の種類などを加味すると膨大な選択肢を獲得できることになる。もちろん、すべての選択肢がデザイン的に優れたものにならないにせよ、デザインの母数が飛躍的に増えることは、より豊かな表現を可能にすることは間違いない。
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